皇大神宮（内宮）域外の別宮

伊佐奈岐宮、伊佐奈弥宮にお祀りする伊弉諾尊、伊弉冉尊は、日本の国土及び山川草木をお生みになられた後、天照大御神をお生みになり、つづいて月読尊をお生みになられた二柱の御親神です。

月読宮以下四別宮は、『皇太神宮儀式帳こうたいじんぐうぎしきちょう[2]』に「月読宮一院、正殿四区」と記され、一囲いの瑞垣みずがき[3]内に祀られていました。すなわち四宮あわせて月読宮と呼ばれており、伊佐奈岐宮、伊佐奈弥宮に宮号が宣下されたのは、第56代清和せいわ天皇の貞観9年（867）8月のことです。 第60代醍醐だいご天皇の延長5年（927）に、古代の法律体系である『延喜式えんぎしき[4]』が上奏されました。これによりますと、伊佐奈岐宮、伊佐奈弥宮が瑞垣をめぐらした一院をなし、月読宮、月読荒御魂宮が一院を形成していました。現在のように、四宮それぞれが瑞垣をめぐらしたお姿になったのは、明治6年からです。

• [2]皇太神宮儀式帳こうたいじんぐうぎしきちょうとは延暦23年（804）宮司大中臣真継おおなかとみのさねつぐらが神祇官じんぎかんに提出した上申文書。祭儀、鎮座の由来などについて記した重要な神宮資料です。
• [3]瑞垣みずがきとは神社の周囲に設けた垣根。正宮は瑞垣、内玉垣うちたまがき、外玉垣とのたまがき、板垣いたがきの四重の垣根に囲まれます。
• [4]延喜式えんぎしきとは平安時代中期に編纂へんさんされた古代法典。巻四には神宮のことが記されています。

このとき、宮川の急流に困られたご一行を真奈胡神まなごのかみがお出迎えをしてお渡ししたため、倭姫命はその場所に真奈胡神をまつる御瀬社みせのやしろをお定めになりました。これが今の皇大神宮摂社多岐原たきはら神社です。瀧原宮の下流約6km、大宮町三瀬川の宮川のほとりに鎮座されています。そこには近年まで熊野街道の「三瀬の渡し」がありました。

瀧原宮は『皇太神宮儀式帳こうたいじんぐうぎしきちょう[4]』には「天照大御神遙宮あまてらすおおみかみのとおのみや」、『延喜式えんぎしき[5]』には「大神遙宮おおかみのとおのみや」、「伊勢と志摩との境の山中、大神宮西を去る九十里」と記されているなど、その歴史の深さがうかがえます。

• [4]皇太神宮儀式帳こうたいじんぐうぎしきちょうとは延暦23年（804）宮司大中臣真継おおなかとみのさねつぐらが神祇官じんぎかんに提出した上申文書。祭儀、鎮座の由来などについて記した重要な神宮資料です。
• [5]延喜式えんぎしきとは平安時代中期に編纂へんさんされた古代法典。巻四には神宮のことが記されています。

伊雑宮の創立は約2000年前、第11代垂仁すいにん天皇の御代といわれます。皇大神宮ご鎮座の後、倭姫命やまとひめのみことが御贄地みにえどころ[1]を定めるため、志摩国を巡行された後、伊佐波登美命いざわとみのみことがこの地に神殿を創建し、天照大御神の御魂をお祀りしたと伝えられています。

• [1]御贄地みにえどころとは皇大神宮こうたいじんぐうへ奉るお供え物を採る所。

志摩国は、大伴家持おおとものやかもちが『万葉集』に「御食みけつ国　志摩の海女あまならし　真熊野まくまのの小船に乗りて　沖おきへ漕こぐ見ゆ」と歌ったように、風光麗しく、海産物に富み、古来神宮と朝廷の御料ごりょう[2]を貢進した土地とされ、今でもアワビや伊勢海老を神饌しんせん[3]の御料として奉納されます。

• [2]御料ごりょうとは天皇や貴人が使用する物。衣服や飲食物などです。
• [3]神饌しんせんとは主食の米に加え、酒、海の幸、山の幸、その季節に採れる旬の野菜などを調理して、神様へお供えされる食事です。

延暦23年（804）の『皇太神宮儀式帳こうたいじんぐうぎしきちょう[4]』には宮名が記されており、それ以前から別宮として位置付けられていたと考えられます。鎌倉時代の『吾妻鏡』には、源頼朝が神宮に祈願した際、神馬を伊雑宮に贈ったと記されています。江戸時代には両宮参拝の後、伊雑宮に詣でていました。

• [4]皇太神宮儀式帳こうたいじんぐうぎしきちょうとは延暦23年（804）宮司大中臣真継おおなかとみのさねつぐらが神祇官じんぎかんに提出した上申文書。祭儀、鎮座の由来などについて記した重要な神宮資料です。

倭姫命は皇大神宮ご鎮座ののち、神嘗祭かんなめさいをはじめとする年中の祭りを定め、神田並びに各種御料品を奉る神領を選定し、禰宜ねぎ[3]、大物忌おおものいみ[4]以下の奉仕者の職掌を定め、斎戒さいかい[5]や祓はらえの法を示し、神宮所属の宮社を定められるなど、神宮の祭祀と経営の基盤を確立されました。

• [3]禰宜ねぎとは宮司を補佐する職。神の心を和ませることを意味する古語「ねぐ」が語源です。
• [4]大物忌おおものいみ忌とは古代から明治時代初期まで存在した神宮の職名。少女が務め、神前近くの奉仕をしました。
• [5]斎戒さいかいとは祭典奉仕の前に心身を清めて、慎むこと。

このように大きなご功績をお示しになられた倭姫命の御功を称えて、大正の初年から神宮司庁と宇治山田市（現在の伊勢市）が倭姫命を祀るお宮の創立を請願し、大正10年1月4日、皇大神宮別宮として当宮のご創立が許可され、同12年11月5日にご鎮座祭が執り行われました。

神宮には、別宮・摂社・末社・所管社の諸宮社があり、ご由緒は古く、奈良時代以前に遡るものが多いのですが、当宮はこのようなご事情により創祀された極めて新しいお宮です。

また、『日本書紀』には、天照大御神のご神徳は「光華明彩ひかりうるわしく、六合あめつちの内に照り徹とおらせり」とあり、太陽にもたとえられていますが、月夜見尊のご神徳はそれに次ぐものとして月になぞらえたと考えられます。

月夜見宮は、伊勢市の中心部に鎮座しますが、古くは高河原たかがわらと呼ばれ、川の流れと農耕に深いつながりのあるお社です。『延喜式えんぎしき[1]』には「月夜見社」とあり、外宮の摂社せっしゃの首位に列していましたが、鎌倉時代のはじめ、第83代土御門つちみかど天皇の承元4年（1210）に、別宮に昇格しました。

• [1]延喜式えんぎしきとは平安時代中期に編纂へんさんされた古代法典。巻四には神宮のことが記されています。

外宮北御門から月夜見宮に真っすぐ伸びる道は、地元の人々に「神路通り」と呼ばれ親しまれています。